2011年の事件に先立つこと10年以上前、すでにこの暗部に決死の覚悟で切り込んだ男がいた。元小結の板井圭介である。2000年、日本外国特派員協会で行われた記者会見で彼が放った「現役時代に多数の八百長に関与した」という肉声は、社会に凄まじい衝撃を与えた。
板井は自著やメディアを通じて、勝ち越し(8勝)を巡る力士間の金銭貸し借りや「仲介人」の存在、土俵上での阿吽の呼吸による手加減の手口を克明に告白。日本相撲協会からの名誉毀損訴訟に晒されながらも、その証言のディテールは圧倒的だった。硬骨の書き手たちによる調査報道や重厚なノンフィクション書籍は、土俵の神聖さの裏に蠢く生臭い人間ドラマと金銭授受のリアリティを冷徹に浮き彫りにしていった。