日本の仏教宗派によって、唱えられる言葉の選択や強調される世界観には味わい深い違いが存在する。例えば、禅の教えを汲む曹洞宗などで頻繁に読まれるのが「願以此功徳普及於一切(がんにしくどくふきゅうおいっさい)」である。ここには、自他の境界を越えて一切の存在に功徳を行き渡らせ、共に仏道を成じようとする力強い誓いが込められている。
一方、阿弥陀仏の救いを信じる浄土宗などの伝統においては「願共諸衆生同生極楽国(がんぐしょしゅじょうどうしょうごくらくこく)」という一節が親しまれてきた。「願わくは諸々の衆生と共に、同じく極楽国に生じん」と読むこの文言は、一人で救われるのではなく、あらゆる命と共に安らぎの世界へ生まれ変わりたいという切実な願いの吐露である。
表現のフレーズは異なれど、いずれの仏教儀礼においても共通しているのは「自分だけの幸福」を求めるのではないという点だ。宗派の壁を超えて流れるこの精神こそが、数千年の時を超えて引き継がれてきた回向の核心と言える。