「たかが牛肉の一部に、なぜこれほどのプレミアムがつくのか」という疑問は、牛の生体解剖構造と食肉流通の厳格な仕分け基準を知ることで氷解します。
シャトーブリアンとは、牛の腰から背骨の内側に沿って位置する牛ヒレ肉(テンダーロイン)のど真ん中、最も太く肉質が均一な中心部だけを切り出した部位を指します。一般的な肉牛は成牛でおよそ700kg〜800kgまで育ちますが、枝肉から骨や余分な脂を除去した精肉段階で、ヒレ肉全体でもわずか全体の約3%(約10〜12kg)しか採れません。
さらにそのヒレ肉のなかから、先端の細い部分(フィレ・ミニョン)や根本の筋っぽい部分を取り除き、芯にあたるもっとも太い中心部を厳選すると、牛1頭から得られるシャトーブリアンはわずか600g〜800g程度にまで激減します。割合に換算すると牛全体の0.1%未満という、天文学的な歩留まりの低さです。
加えて、ヒレ肉は牛の胴体の中で最も運動をしない筋肉群です。筋膜や腱格が発達せず、筋肉の1本1本の繊維が極限まで細いため、赤身肉でありながら歯を入れずとも解けるような柔らかさを誇ります。この「物理的な絶対量の少なさ」と「唯一無二の食感」の掛け合わせが、オークション形式で競り落とされる枝肉相場において常に天井の価格を形成する最大の構造的要因です。