実は、かにしゃぶの成否の8割は火を入れる前に決まっている。最大の落とし穴が「解凍方法」だ。常温に放置したり、電子レンジの解凍モードを使ったり、あるいは流水に直接身を晒すのは最悪の選択肢と言わざるを得ない。蟹の細胞膜が破壊され、旨味の結晶である「ドリップ」が液体となってすべて流れ出してしまうからだ。
プロが徹底しているのは「氷水解凍」だ。蟹を密閉できるジッパー付き保存袋に入れ、しっかりと空気を抜く。それを大量の氷を浮かべたボウルに沈めるのだ。外気温に左右されず、0度近い一定の低温を保ちながら緩やかに熱を伝えることで、氷結晶の融解による細胞破壊を最小限に食い止める。半解凍、つまり芯がわずかにシャリッとした状態でキッチンペーパーの上に並べ、表面の余分な水分を優しく拭き取る。このひと手間で、家庭の蟹は専門店のクオリティへと跳ね上がる。