大阪の難波・日本橋エリアに漂う香ばしい匂いに誘われて路地に入ると、どこか懐かしい昭和レトロな佇まいの一芳亭 本店が現れます。暖簾をくぐる来訪者のほぼ100%が注文するのが、鮮やかな黄色をまとった一芳亭 しゅうまいです。
一般的な焼売といえば、小麦粉で作られた白い皮で包まれているのが通例です。しかし、一芳亭の最大の特徴は、職人が一枚ずつ極薄に焼き上げた「薄焼き卵」で具材を包み込んでいる点にあります。この製法が誕生した背景には、歴史的なドラマが存在します。戦後間もない物資不足の時代、小麦粉の入手が極めて困難だった折、創業者が試行錯誤の末にたどり着いたのが、当時なんとか手に入った卵を使った薄皮でした。逆境から生まれた苦肉の策が、結果として半世紀以上愛され続ける大傑作となったのです。
一口頬張ると、まずその驚異的な柔らかさに衝撃を受けます。餡のベースとなるのは、厳選された豚挽肉とエビのすり身、そして主役級の存在感を放つ淡路島産の玉ねぎです。つなぎを極力抑え、玉ねぎ本来の自然な甘みと豚肉の旨味をダイレクトに引き出しているため、口の中でホロリと解けて消えていきます。1日平均で数千個から繁忙期には1万個近くが手作業で包まれ、蒸籠から立ち上る湯気とともに客席へと運ばれていきます。「何個食べても胃もたれしない」「持ち帰って冷めてもふっくら感が損なわれない」と絶賛される理由は、この黄色いしゅうまい 薄焼き卵の繊細な蒸気循環と玉ねぎの水分バランスに隠されています。