「月と地震」を語る上で混同されやすい決定的な要素が、月の引力と地震の関連性です。月が赤く見えること自体に地震の予知能力はありませんが、月が地球に及ぼす「重力(潮汐力)」については、地球物理学の分野で真剣な研究が続けられています。
東京大学大学院理学系研究科の井出哲教授らの研究チームが、イギリスの科学雑誌『Nature Geoscience』に発表した論文(2016年)は世界的な注目を集めました。この研究では、マグニチュード5.5以上の世界中の大地震1万件以上を網羅的に解析し、マグニチュード8.2を超える巨大地震の多くが、潮汐応力が最大になる時期(大潮期=満月や新月の前後)に発生しているという統計的傾向を明らかにしました。
地球と太陽、月が一直線に並ぶ満月や新月の時期には、海水だけでなく地殻そのものにもわずかな歪み(地球潮汐)が生じます。断層に極限まで歪みが蓄積して崩壊寸前になっている状態において、月の引力が「最後の一押し」のトリガーとして働く可能性は科学的に立証されています。
しかし、ここで強調すべきは、関係があるのは「月と太陽の位置関係による引力」であり、「月が赤く見えるかどうか(大気光学現象)」とは完全に別次元の話であるという点です。満月であっても大気が澄んでいれば白や黄色に見えますし、三日月であっても地平線近くにあれば赤く見えます。「赤さ」と「引力」を混同して不安を煽る情報には、冷静な線引きが必要です。