歴代巨大衣装の中で、今なお語り草となっているのが2009年に登場した「メガ幸子」です。自身の顔を精密にスキャンして作られた巨大な小林幸子像がステージ奥からせり上がり、本人がその手の上に乗って歌い上げる演出は、視聴者に強烈なインパクトを与えました。
このメガ幸子の全高は8.5メートル、総重量はおよそ3トンに達しました。当時の制作チームの証言によると、衣装というよりは完全な大型クレーン機構であり、NHKホールの床面耐荷重の限界テストを何度もクリアしてようやく設置が認められたといいます。小林幸子自身も自著や過去のインタビューで、「衣装の仕掛けを動かすために、スタッフが特殊な重機の操作資格を取得した」「万が一の落下事故に備え、命綱をつけて命がけで歌っていた」と現場の極限状態を明かしています。
そしてこの巨大化の起爆剤となったのが、美川憲一との「豪華衣装対決」でした。1990年代、ワイドショーは毎年秋になると「今年の小林幸子はどんな仕掛けか」「美川憲一の衣装代はいくらか」と連日報道。対決構造としてメディアを煽りつつも、実際には両者の間で綿密なリスペクトと打ち合わせが存在していました。美川憲一が「幸子、今年はどんな手で来るの?」と問い、小林幸子が「絶対に負けないわよ」と返す――このプロフェッショナル同士の阿吽の呼吸が、テレビ黄金期の紅白を象徴するキラーコンテンツへと育て上げたのです。