なぜ本作は、過去のヒット作のように16〜18%台へと数字を伸ばし切れないのか。取材班がテレビ制作関係者へのヒアリングと視聴環境の分析を進めた結果、構造的な3つの要因が浮き彫りになりました。
第1の理由は、配信シフトに伴う「TVer検索」とのギャップです。民間放送のドラマであれば放送直後からTVerで無料配信され、再生回数が公式指標として大々的にPRされます。本作でもSNS上で「TVerで見られないのか」という声が頻発していますが、NHK作品の見逃し配信の主戦場は「NHKプラス」と「NHKオンデマンド」です。朝の忙しい時間帯にリアルタイム視聴を諦め、夜間にNHKプラスで視聴する層が激増しているにもかかわらず、その膨大な熱量が旧来の「世帯視聴率」に反映されていない実情があります。
第2の理由は、「朝のながら見」を拒絶する重厚な脚本演出です。歴代の高視聴率朝ドラの多くは、家事や出勤準備をしながら耳だけで追えるわかりやすい台詞回しや、コミカルな日常劇を売りに日常のテンポを作ってきました。しかし『風、薫る』は、登場人物の視線の動きや沈黙の「間」、繊細な陰影を帯びた美術によって心情を語らせる本格派のドラマ作りを貫いています。画面に目を奪われる没入型の演出ゆえに、ライトな朝のながら見層が一部ふるい落とされた側面は否定できません。
第3の理由は、複雑なキャスト相関図と人間関係の陰影にあります。見上愛演じる主人公と、上坂樹里演じるもう一人のキーパーソンを軸に据えた物語は、単なる善悪二元論や王道のサクセスストーリーではありません。家族のしがらみや時代背景に翻弄される複雑な人間模様が展開されるため、途中からチャンネルを合わせた視聴者が即座に状況を把握しづらいというハードルが生じています。