本作の代名詞である「穴」には、児童書出版の歴史を変えたドラマが存在します。「はらぺこあおむし 穴あき絵本の秘密」を語る上で欠かせないのが、日本の印刷所が果たした決定的な役割です。
1960年代末、エリック・カール氏がページごとにサイズが異なり、中央に精密な穴を開ける(ダイカット加工)絵本の試作を持ち込んだ際、アメリカ国内の印刷会社は一様に首を横に振りました。手作業を要する特殊な型抜き製本はコストが跳ね上がり、採算が合わないと判断されたためです。そこで救世主となったのが、日本の出版社である偕成社の当時の社長・今村廣氏でした。
今村氏は作品の芸術性と知育的価値を即座に見抜き、日本の高度な技術を持つ印刷所へ製造を打診。精密機械と熟練の手作業を組み合わせることで、低コストかつ丈夫な大量印刷ラインを確立しました。つまり、現在世界中の子どもたちが指を突っ込んで遊んでいるあの穴は、日本の職人技術がなければ世に出なかった可能性が高いのです。
「エリック・カール 絵本 仕掛け」の真骨頂は、指先を使う触覚体験にあります。子どもは絵を見るだけでなく、あおむしが食べた穴に自分の小さな指を差し込むことで、「あおむしと同化する」擬似体験を味わいます。この行為が、幼児の微細運動能力(指先の巧緻性)を刺激し、脳の発達を力強く促す仕掛けとして機能しています。