イリヤの内面を支配していたのは、無垢な少女の純粋さと、底知れない復讐心という二面性でした。その根源にあったのが、最愛の父である衛宮切嗣との関係です。前日譚『Fate/Zero』において、切嗣は第四次聖杯戦争に赴く直前まで、彼女に惜しみない無償の愛情を注いでいました。城の森で雪遊びに興じる父娘の姿は、冷酷な「魔術師殺し」が唯一見せた人間らしい温もりそのものでした。
しかし、聖杯の汚染を悟った切嗣が大聖杯の破壊を選択したことで、アインツベルンは切嗣を完全な裏切り者と断定。冬木から帰還した切嗣が娘を取り戻そうとアインツベルン城へ向かうも、強固な結界に阻まれ、凍てつく森の中で侵入を拒まれ続けました。切嗣は死の瞬間までイリヤを救い出そうと奔走していましたが、アインツベルンの老人たちはイリヤに対し、「父は聖杯戦争に敗れ、お前を捨てて冬木で別の子供を養子にして平穏に暮らしている」という残酷な虚偽を刷り込み続けたのです。
父に裏切られたという絶望は、切嗣の養子となった衛宮士郎への激しい憎悪へと歪められました。本編序盤において、彼女が士郎を拉致して人形に加工しようとしたり、容赦なくバーサーカーをけしかけたりした冷酷な振る舞いは、愛されたかった父への思慕の裏返しでした。しかし、血のつながらない弟・士郎が自分と同じように切嗣の理想に縛られ、それでも愚直に他者を救おうとする姿を目の当たりにする中で、憎悪は急速に「家族を守りたい」という慈愛へと昇華していきました。