爪に現れる異常を目の当たりにしたとき、多くの人は「年齢のせい」と片付けがちです。確かに加齢によって爪甲の水分量が減少し、浅い縦筋(爪甲縦条毛)が目立つようになる現象自体は生理的な変化として珍しくありません。しかし、明らかな白濁、黄色化、異常な肥厚、あるいは急激な変形が伴う場合、それは老化の一言では説明がつかない病的な代謝不全を疑う必要があります。
そこで浮上するのが、糖尿病の爪の変色と理由をめぐる病態生理です。爪の根本にある爪母(そうぼ)で作られたケラチンタンパク質が健康に角化するためには、毛細血管網から酸素と栄養が滞りなく供給されなければなりません。ところが、持続的な高血糖に晒された体内では、過剰なブドウ糖がタンパク質と結合して悪玉物質である「終末糖化産物(AGEs)」を大量に生成します。
このAGEsが毛細血管の壁を硬化・狭窄させると、爪母への血流が著しく途絶えます。さらに、高血糖は血管内皮細胞を傷つけて微小循環不全を引き起こすため、作られる爪そのものが栄養飢餓に陥ります。結果として、健康なピンク色の光沢が失われ、爪甲が濁ったり変形したりする物理的な異変となって表面化するのです。つまり、爪の異変は末梢血管が静かに悲鳴を上げている決定的な証拠と言えます。