婚姻届の受理によって法的に成立する「妻」の地位には、個人の感情や関係性を超えた強固な法的効果が伴います。民法における婚姻関係の成立は、双方に明確な権利と法定義務を課す契約行為そのものです。
民法第752条は「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と規定しています。この「同居・協力・扶助の義務」に基づき、妻は夫と生活を共にし、経済的・精神的に支え合うことが法的な責務とみなされます。これに付随して、婚姻費用(生活費全般)の分担義務(民法第760条)や、日常の家庭生活から生じた負債についての連帯責任(民法第761条)が自動的に発生します。また、夫婦の一方が婚姻前から有していた財産や婚姻中に自己の名で得た財産は特有財産となる一方、婚姻中に築いた実質的な財産は共有財産とみなされ、万一の離婚時には財産分与請求権(民法第768条)の対象となります。
ここで大きな議論となるのが、法律婚と事実婚(内縁関係)の違いです。婚姻届を提出しない事実婚であっても、実質的な共同生活と婚姻の意思が認められれば、内縁関係として同居・扶助義務や不貞行為に対する損害賠償請求、離婚時の財産分与などは法律婚に準じて保護されます。遺族年金の受給資格など、社会保障面での格差も実務上は縮まりつつあります。
しかし、決定的な断絶が存在するのが法定相続権と税制上の優遇措置です。法律婚における妻は、配偶者として常に第一順位の相続人となり、遺産の2分の1(子どもがいる場合)を取得する権利(民法第900条)や、最低限の取り分である遺留分が保障されます。さらに、相続税の配偶者控除により、最低でも1億6,000万円または法定相続分相当額まで相続税が課税されません。事実婚ではどれほど長年連れ添った関係であっても、遺言書がなければ遺産を一切相続できず、遺贈によって財産を取得した場合でも配偶者控除は適用されず、2割加算の相続税が課されます。この法的な防壁の有無こそが、制度としての「妻」が持つ最大の実権です。