『Lemon』が生まれた出発点は、石原さとみが主演を務めた法医学ミステリードラマ『アンナチュラル』(TBS系)の主題歌オファーでした。脚本家の野木亜紀子、プロデューサーの新井順子、演出の塚原あゆ子らが手がけた同作は、「不自然死究明研究所(UDIラボ)」を舞台に、不条理な死の裏にある真実と、遺された生者の生き様を鮮烈に描いた傑作ドラマです。
制作陣から米津玄師へ提示されたオーダーは「傷ついた人々を優しく包み込むような楽曲」。米津自身も当初は、ドラマのコンセプトに寄り添い、客観的な視点から「死」という普遍的テーマを俯瞰して描く構想を練っていました。しかし、全国ツアーの合間を縫って行われた過酷な楽曲制作の最中、彼の人生において決定的な出来事が起きます。実の祖父が他界したのです。
当時の特番インタビューや本人の手記において、米津はこの時の衝撃と葛藤について率直に述懐しています。身近な肉親の死に直面したことで、それまで構築しようとしていた「どこか客観的で綺麗な死生観」は完全に打ち砕かれました。どれだけ言葉を紡ごうとしても、脳裏を去来するのは祖父への想いと、喪失に対する生々しい痛みばかり。結果として米津は、ドラマへのタイアップという枠組みを保ちながらも、「自分自身の極めて個人的な悲哀と記憶を、一切の誤魔化しなく吐き出す」という決断を下します。この私小説的な純度の高さこそが、結果として数千万人の心を揺さぶる普遍的な強度を生み出す源泉となりました。