文例集に掲載されている古典的な時候の挨拶をそのまま用いることに対し、受け手側はどう感じているのでしょうか。日本ビジネスメール協会が公表しているビジネスパーソンの意識調査や、ソーシャルメディア上の率直な投稿を分析すると、形式重視の挨拶に対する現場のリアルな違和感が浮かび上がってきます。
実態調査によると、20代から50代のビジネスパーソンを対象としたアンケートにおいて、「実際の気温とあまりに乖離した季節の挨拶状を受け取った際、形式だけの違和感を覚えたことがある」と回答した割合は67.4%に達しています。特に近年の9月は、全国各地で最高気温35度以上の猛暑日が頻発する傾向にあります。そのような炎天下において「秋涼の候、貴社ますますご清栄のこととお慶び申し上げます」といった定型文が届くと、受け手には「状況を無視した機械的な作業」と映ってしまうケースがあるのです。
知恵袋やSNS上のビジネスコミュニティでも、次のような声が散見されます。
「気温34度の日に『秋涼のみぎり』という挨拶状が届き、思わず苦笑いしてしまった」
「マナー本通りに書くことも大切だが、文頭で『まだ厳しい暑さが続いておりますが』と一言添えてくれる取引先のほうが、血の通った配慮を感じて信頼できる」
手紙や公的文書の書き出しマナーとは、単なる古典の暗記ではありません。「形式としての格式(漢語調)」を維持しながらも、続く本文の導入部で「体感としての実情(和語表現)」をフォローする二重構造こそが、現代の洗練されたビジネスマナーといえます。