現場のセラピストが口を揃えて訴える「給与への不満」は、決して単なる愚痴ではありません。医療機関や介護事業所の経営メカニズムを解剖すると、個人の努力だけでは抗えない3つの構造的障壁が浮かび上がってきます。
第1の要因は、診療報酬制度が規定する「1人あたりの売上上限」です。保険医療機関において、疾患別リハビリテーション料の算定は1単位20分と定められており、1人のセラピストが算定できる上限は原則として「1日18単位まで(最大24単位まで、週108単位以内)」と厳格に法律で制限されています。どんなに腕の良い言語聴覚士が熱心にリハビリを提供しても、1人が1日に病院へもたらす保険点数の上限は最初から固定されています。売上の天井が定められている以上、病院側もセラピスト個人の人件費を大幅に引き上げることができません。
第2の要因は、医療法人や社会福祉法人における昇給ピッチの鈍さです。ネット上でも議論される言語聴覚士昇給真相の核心は、定期昇給の低さにあります。一般企業では業績や個人の営業成果に応じて月給が数万円単位で昇給することもありますが、医療機関の定期昇給は年間で月額1,000円〜3,000円程度が一般的です。年間3,000円の昇給の場合、10年間同じ病院に勤め続けても月給のベースは3万円しか上がりません。これが「30代になっても手取り20万円台前半から抜け出せない」という現場の疲弊を招いています。
第3の要因は、リハビリテーション科内における圧倒的な人員差とポスト不足です。理学療法士(PT)が30名、作業療法士(OT)が15名在籍する回復期リハビリテーション病院でも、言語聴覚士(ST)はわずか3〜5名しか配置されていないケースが日常茶飯事です。組織のピラミッド構造上、リハビリテーション科長や統括部長といった高額な言語聴覚士役職手当ボーナスを得られる上位ポストは、人数の多い理学療法士に独占されやすく、言語聴覚士が管理職に登用されるチャンスそのものが極端に制限されています。