鍵が回らないトラブルにおいて、ネット上で最も誤解されており、現場の鍵職人が頭を抱えているのが「家庭用潤滑油の注入」です。金属の滑りを良くしようと、機械用オイルスプレーやサラダ油を鍵穴に吹き込んでしまう事例が後を絶ちません。
ここで断言しますが、クレ556を使ってはいけない理由は、シリンダーの機構特性にあります。呉工業の「KURE 5-56」をはじめとする金属用浸透防錆潤滑剤は、吹き付けた直後こそ一時的に油分で滑りが良くなり、鍵が回るようになります。しかし、これらの液体油は揮発しにくく、強い粘着性を保ち続けます。
鍵穴に油膜が残ると、空気中を舞う砂埃や鍵に付いた繊維クズが油に吸着され、内部でヘドロ状の油泥へと変化します。数週間から数か月が経過すると、この油泥が乾燥・固着し、ピンやスプリングを完全に固化させてしまいます。こうなると分解洗浄でも復旧できず、シリンダー丸ごとの交換を余儀なくされ、数万円の余計な出費を強いられることになります。
シリコンスプレーやミシン油、食用油も同様です。シリンダー内部は完全な「無油・乾燥状態」が設計基準となっており、使用できるのは揮発性の高いパウダー状の専用潤滑剤のみです。