「何度注意しても同じミスを繰り返す」「同じ言い争いが無限にループする」――現場取材において最も多く耳にするのが、この悪循環に起因する疲弊の声だ。人が同じ過ちや行動パターンをなぞってしまう背景には、同じことを繰り返す心理と、器質的な脳機能障害という2つの全く異なるレイヤーが存在する。
心理的要因の根底にあるのは、人間の脳に備わった「認知的倹約(コグニティブ・マイザー)」の性質だ。脳は生存のために消費エネルギーを最小化しようとするため、一度定着した行動パターンを疑わずに自動運転(オートパイロット)へと移行させる。ミスが起きる環境そのものが変わっていなければ、脳は過去と同じ神経回路を惰性で選択し、必然的に同じミスを繰り返す理由を作り出してしまうのだ。この状態に「気をつける」「注意する」という精神論は一切通用しない。
しかし、問題が個人の無意識な習慣にとどまらないケースも厳然として存在する。それが同じことを繰り返す病気の領域だ。強い不安に駆られて鍵やガスの元栓を何度も確認する行為、業務上の手順が全く頭に定着せず脱落を繰り返す状態、あるいは数分前の会話内容を完全に失念して同じ発言を続ける兆候は、脳内の神経伝達物質の異常や神経細胞の変性を強く疑うべきサインである。これを「本人の甘え」と誤認して叱責を重ねると、二次障害として重篤なうつ病や適応障害を招くリスクが跳ね上がる。