刑事事件における手続きを正しく理解するためには、まず「事件の進め方(身柄か在宅か)」と「起訴の形式(公判請求か略式請求か)」という2つの異なる軸を明確に区別しなければなりません。ネット上の法律相談などで最も多く見られる混乱は、この2軸をごちゃ混ぜにしてしまっている点にあります。
日本の刑事司法において、捜査段階は大きく「身柄事件」と「在宅事件」に分かれます。身柄事件は、逃亡や証拠隠滅の恐れがあるとして被疑者を逮捕・勾留し、最大23日間にわたって警察署の留置場などに拘束して捜査を進める手法です。これに対し、在宅事件は定職や家族があり、逃亡の恐れが低いと判断された場合に、身柄を拘束せず自宅で日常生活を送らせながら、必要に応じて警察や検察庁へ出頭を求めて捜査を進める形式を指します。
問題は、捜査が終了した後の検察官による起訴の判断です。検察官が事件を裁判所に持ち込む「起訴」には、主に以下の2種類が存在します。
1つ目が「公判請求(正式裁判)」です。これは裁判官、検察官、弁護人が揃う公開の法廷を開き、証拠調べや被告人質問を経て判決を言い渡す厳格な手続きです。この公判請求を、身柄拘束されていない状態のまま受けることを俗に「在宅起訴」と呼びます。つまり、在宅起訴された被告人は、普段どおり自宅から出勤や通学を続けながら、指定された期日に指定の刑事法廷へ出廷し、被告人席に座って裁きを受けることになります。
2つ目が「略式起訴(略式命令請求)」です。これは簡易裁判所の管轄に属する事件のうち、「100万円以下の罰金または科料」に相当する比較的軽微な事案で、かつ被疑者本人が罪を認めて略式手続きに異議がない旨の同意書に署名・押印した場合にのみ行われます。法廷での審理は一切行われず、裁判官が検察から提出された書面だけを審査し、数日から数週間で「略式命令」という罰金の納付書を郵送して手続きを完結させます。
したがって、「在宅起訴」は裁判の法廷が開かれる手続きであり、「略式起訴」は法廷が開かれないペーパー審査の手続きという決定的な違いがあります。また、在宅事件のまま略式起訴されるケース(実務上極めて多い形態)もあれば、身柄拘束中に略式起訴となって罰金納付と引き換えに釈放されるケース、在宅のまま正式裁判を請求されるケースなど、手続きの組み合わせは多岐にわたります。