個人レベルでの存在意義の模索と軌を一にするように、ビジネス界においても企業の存在意義を経営の中核に据えるパーパス経営の波が本格化しています。製品の機能や価格だけで差別化することが困難を極める成熟市場において、ステークホルダーは「その企業が社会に存続する正当な理由」を厳しく吟味しています。
ここで、組織としての存在意義を言語化し、事業活動を通じて社会的価値の創出と経済的利益を両立させている存在意義の具体例を検証します。
ソニーグループは、その存在意義(Purpose)として「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」を掲げています。同社はかつて多角化の過程で各事業の方向性が分散し、業績低迷に苦しんだ歴史を持ちます。しかし、エレクトロニクス、エンタテインメント、半導体、金融といった一見バラバラに見えるポートフォリオを「感動(Kando)を創出するためのエコシステム」として再定義したことで、組織の結束力を劇的に高め、過去最高益を更新する復活劇の原動力としました。
また、富士通は2020年に「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」というパーパスを策定し、自社の事業領域を従来のITベンダーから社会課題解決企業(Fujitsu Uvance)へと大胆にシフトさせました。公式発表資料や決算説明会でも、すべての事業投資基準がこの存在意義に合致しているかが厳密に問われています。
一方で、実態を伴わない美辞麗句だけを並べ立てる「パーパスウォッシュ」に対する市場の視線は冷淡です。経営陣の会見や手記でも語られる通り、真のパーパス経営とは、時に目先の短期的な売上を捨ててでも自社の存在意義に背く事業から撤退する勇気を持てるかどうかにかかっています。存在意義とは耳当たりの良い宣伝文句ではなく、重大な経営判断を下す際の「覚悟の物差し」です。