料理人の間では古くから「魚焼きの成否は火にかける前の15分で8割が決まる」と言われます。スーパーで購入した切り身をワンランク上の料亭品質へと昇華させるための鍵は、塩がもたらす浸透圧のコントロールです。
調理の15〜20分前に、鯖の切り身の両面へ均一に塩を振りかけます。塩分量は生鯖の場合、魚の重量に対して約1.0〜1.5%(切り身1切れ80g〜100gに対して小さじ1/4強程度)が適量です。塩を振って常温で放置すると、浸透圧の作用によって細胞内の余分な水分が、臭み成分であるトリメチルアミンを巻き込みながら表面にジュワッと浮き上がってきます。
ここで最も重要なアクションが、「浮き出た水滴をキッチンペーパーで完全に拭き取ること」です。この水分を放置したまま焼き始めると、生臭さが身に焼き付いてしまいます。さらに臭みに敏感な場合は、塩を振って水分を拭き取った後に少量の清酒を全体に振りかけ、再度ペーパーで軽く押さえる「酒洗い」を行うと、アルコールの共沸効果によって微細な臭気まで完全に消し飛びます。
なお、忙しい日常で重宝する冷凍鯖の切り身を使用する場合は、急激な電子レンジ解凍は厳禁です。ドリップが大量流出してパサつきの原因となるため、調理の半日前に冷蔵庫へ移す「緩慢解凍」を行うか、ジッパー袋に入れて氷水に浸す「氷水解凍」を選択してください。半解凍の状態で塩振りを行い、表面の水分を完璧に除去してから焼きに入ることが、冷凍特有のパサつきを防ぐ絶対条件です。