医療や福祉の現場でトラウマインフォームドケアが急速に重要視されている最大の理由は、従来の「管理・統制型アプローチ」が限界を迎えている点にあります。これまでの対人支援では、パニックを起こす患者や指導に従わない児童生徒に対して「なぜルールを守れないのか」「どうすれば問題行動を抑え込めるか」という、いわば「What is wrong with you?(あなたは何が問題なのか)」という問いかけが中心でした。
しかし、近年の神経生物学や愛着理論の発展により、反抗的・自暴自棄に見える態度の多くが、過去のトラウマに対する生存本能的な「過覚醒」や「解離」といった適応反応であることが解明されています。厚生労働省の関連検討会資料や各種学会の報告でも、精神科受診者や児童養護施設の入所者の大半が何らかの深刻なトラウマ体験を抱えている実態が浮き彫りになってきました。
そうした背景を踏まえ、TICが投げかける問いは「What happened to you?(あなたに何が起きたのか)」へと劇的に転換します。行動の背後にある痛みに気づき、相手が安全を実感できる環境を整えることこそが、結果として暴力行為や治療中断を劇的に減らす近道であることが、エビデンスを伴って実証されつつあります。