室内外で遭遇した多足類が「今すぐ命に関わる激痛をもたらす存在なのか」、それとも「不快感はあるものの攻撃はしてこない存在なのか」。この判断を一瞬で下すための鍵は、足の数の決定的な違いと危険性の性質にあります。
最もわかりやすい識別ポイントは、胴体の節(体節)から生えている足の本数です。ムカデとヤスデの見分け方において、生物学上の明確な境界線はここに存在します。ムカデは唇脚綱(しんきゃくこう)に属し、1つの体節から左右に1対(2本)の足が生えています。全体の足の数は種によって異なりますが、国内で住宅地に現れるトビズムカデなどは約21〜23対(42〜46本)程度です。足が横に張り出すように伸びており、獲物を捕食するために波打つような猛スピードで疾走します。
対してヤスデは倍脚綱(ばいきゃくこう)に分類され、頭部近くの最初の数節を除き、1つの体節から左右に2対(4本)の足が生えています。合計すると数百本に及ぶ足が胴体の真下に密集しており、まるで無数のピストンが波打つように地面を滑らかに歩行します。移動速度は非常に遅く、危険を感じるとダンゴムシのように体を渦巻き状に丸める防御姿勢をとるのが特徴です。
そして最大の違いが、攻撃性と毒の構造です。ムカデは肉食性の捕食者であり、頭部のすぐ下にある鋭い毒肢(変形した前足)で獲物に咬みつきます。この毒にはセロトニン、ヒスタミン、ポリペプチドなどが含まれ、人間が咬まれると瞬時に焼けつくような激痛と激しい腫れを引き起こします。
一方でヤスデは、落ち葉や朽ち木を食べるおとなしい分解者であり、人間を咬む口器を持ちません。しかし安心は禁物です。ヤスデの毒性と危険性は咬傷ではなく、外敵から身を守るために体側の臭腺から噴出する分泌液にあります。毒針で攻撃してくるムカデに対し、ヤスデは化学兵器のような防御液を纏っているという決定的な違いを把握しておく必要があります。
また、同じく多足類として民家に出没するゲジ(通称ゲジゲジ)も混同されがちですが、ゲジゲジとの違いは一目瞭然です。ゲジは体長に対して極めて長い足を持ち、クモのように高く浮き上がった姿勢で超高速移動します。見た目のグロテスクさから激しく忌み嫌われますが、毒性は極めて弱く、ゴキブリやダニを捕食してくれる衛生上の益虫です。咬まれるリスクが極めて高いムカデとは根本的に区別しなければなりません。