スズメバチ科に属するクロスズメバチは、日本全国の平地から山林まで幅広く生息しています。地域によっては「地蜂(ジバチ)」や「ヘボ」「スガレ」などの愛称で親しまれてきましたが、その最大の特徴は、営巣場所の約8割近くが土の中や倒木の隙間、家屋の屋根裏・床下といった密閉空間にある点です。
なぜ彼らはあえて地中を選ぶのでしょうか。昆虫生態学の知見および害虫駆除現場の調査データを紐解くと、主に3つの合理的理由が浮かび上がります。
第1に「天敵からの防衛」です。開放的な樹上に巣を作ると、鳥類や天敵であるオオスズメバチによる襲撃に晒されやすくなります。地中の狭い出入口を利用することで、巨大な外敵の侵入を防ぎ、少数で巣口を警備できる防衛上の利点が生まれます。
第2に「恒温性の維持」です。土中は外気温の急激な変化や風雨から保護されており、幼虫の育成に適した一定の温度と湿度が保たれます。クロスズメバチは自ら土を掘削する力は弱いため、もともとモグラや野ネズミが掘った廃トンネル、朽ちた木の根元に生じた空洞を巧みに再利用します。
第3に「コロニー拡大の柔軟性」です。働き蜂は巣の拡大に合わせて周囲の土を大顎で削り取り、団子状にして巣の外へと運び出します。秋の最盛期には、バレーボールから大型のスイカ大(直径20〜40cm前後、段数にして6〜10段以上)にまで地下シェルターを拡張させる驚異的な土木技術を持っています。