ファンの間や音楽関係者の間で今なお語り草となっているのが、本作レコーディング時における松田聖子の「声の異変」です。デビュー以来の殺人的なスケジュールによって喉を酷使し、当時の彼女の声帯は深刻な疲労と炎症でハスキーな状態に陥っていました。
しかし、このピンチを奇跡の芸術へと転換させたのが大滝詠一の慧眼と、松田聖子自身の非凡な歌唱力でした。大滝詠一は彼女のかすれた歌声を「憂いと切なさを表現する最高の武器」と捉え、キーの設定や歌い回しのディレクションを徹底。初期の突き抜けるような「キャンディ・ボイス」とは異なる、ハスキーでありながら艶やかな哀切を帯びたボーカルを引き出すことに成功しました。完璧なコンディションでは決して生まれ得なかった生々しい感情表現が、楽曲のドラマ性を極限まで高めています。