1996年、ベルリン国際映画祭のコンペティション部門に出品された日本映画『絵の中のぼくの村』は、現地の観客や審査員に鮮烈な衝撃を与えました。映画祭で授与された銀熊賞(Silver Bear for an outstanding single achievement)は、東陽一監督が築き上げた独自の映像美と演出手腕に対する最高の賛辞でした。
東陽一監督といえば、日本アート・シアター・ギルド(ATG)で発表した『サード』や『もう頬づえはつかない』など、鋭利な時代感覚と人間の内面を冷徹に見つめるリアリズムで知られた巨匠です。その監督が、絵本作家・田島征三氏の少年時代という極めて私的な物語を手がけると発表された当初、映画ファンの間では意外な組み合わせとして受け止められました。
しかし、完成した映画は単なる甘美な「昭和ノスタルジー」とは一線を画すものでした。スクリーンに広がっていたのは、緑が生い茂る高知の山林、澄んだ川のせせらぎ、そしてそこに潜む魔物や精霊の気配です。監督はインタビューや対談において「自然は人間にとって都合の良い美しいものだけではなく、恐ろしく混沌とした生と死の源泉である」と語っています。このアニミズム(精霊信仰)と現実が地続きになったマジックリアリズムの手法こそが、文化の壁を越えて世界の一流映画人を圧倒した最大の要因です。