県外からの来訪者や初めて訪れる観客がしばしば抱くのが、「なぜ公立の芸術劇場に『メディキット』という民間企業の名称が付いているのか」という疑問です。この宮崎県立芸術劇場 愛称の理由には、地方自治体における文化財源の確保と、地域経済人の熱い郷土愛が交錯するドラマが存在します。
2008年、宮崎県は施設の維持管理費や文化振興事業の財源を確保するため、宮崎県立芸術劇場に対するネーミングライツ(施設命名権)のスポンサー募集を行いました。これに手を挙げたのが、人工透析用の留置針や血管造影用カテーテルなどの精密医療機器分野で世界的な評価を受ける「メディキット株式会社」です。同社の創業者一族が宮崎県日向市の出身であった縁から、単なる企業宣伝にとどまらず「地域社会の文化・芸術振興に寄与したい」という強固なメセナ精神のもとでパートナーシップが成立しました。
公募当初は、公立施設にカタカナの民間企業名が冠されることに対する県民の戸惑いもありました。しかし、契約金が劇場の自主制作舞台や青少年向けの鑑賞体験プログラムへと適切に還元され、質の高い文化発信が維持され続けた結果、現在では「メディキット県民文化センター」という呼称は県民の間に広く深く定着しています。公共インフラと民間資本が健全な信頼関係を築き上げたモデルケースとして、全国の文化政策関係者からも高い評価を得ています。