東京帝国大学講師という当時の最高峰のエリートポストを自ら投げ打ち、一新聞社の専属作家へと身を投じた文豪・夏目漱石。彼の決断は、当時の知識人社会に強烈な電撃を与えた。東京帝国大学を辞職した漱石が朝日新聞社へ入社したのは、まさにこの時代の大きな転換期にあたる。
なぜ彼は安定したアカデミズムを捨てたのか。そこには単なる執筆活動への専念にとどまらない、近代社会と出版・報道メディアに対する鋭い対峙があった。新聞連載の第一弾として発表された小説『虞美人草』は、当時の読者層に爆発的なフィーバーを巻き起こす。消費社会の波が文学をのみ込み、ジャーナリズムが世論を動かす時代の幕開けを、漱石の転身は見事に象徴していた。