建築を単なる「箱」として捉えない。それが彼女の設計哲学の根本にある。太陽の傾きによって刻一刻と変化する影の落ち方や、外気が通り抜ける時の微小な空気の揺らぎ。そうした気象や環境の動きそのものを、彼女は意匠の第一材料として扱う。
例えば、過去の個展やインスタレーションで見せた素材へのアプローチを思い返してほしい。薄い膜、水滴の反射、アクリル板の重なり。強固な建造物を建てているはずなのに、完成した空間に立つとまるで風のなかに漂っているかのような錯覚を覚える。硬質な都市の構造の中に「余白」を生み出す技術は、過剰に密密化した現代社会において、人々の呼吸を整える心地よい装置として機能している。