暖簾をくぐって席に着く際、必ず視界に入るのがレジ横やカウンターの一角に据えられた巨大なおでん鍋です。何十年にもわたり継ぎ足されてきた漆黒の出汁の中で、具材がじっくりと煮崩れる寸前まで味を染み込ませています。
このおでん鍋から立ち上る芳醇な湯気こそ、思案橋ラーメンのもう一つの主役。特に注文が集中するのが「すじ肉」です。トロトロになるまで煮込まれた牛すじは、口に含んだ瞬間に脂の甘みと濃厚な醤油ダシが溶け出し、噛む必要がないほど柔らかく仕上がっています。出汁が中心部まで完全に染み渡った大根や玉子も外せません。
長崎の地元民の間では、席に着いたらまず瓶ビールとおでんのすじ肉を数本頼み、辛子をたっぷりつけて喉を潤しながらちゃんぽんの出来上がりを待つのが定番のルーティンです。麺類が届くまでの時間を贅沢な酒肴タイムに変えてくれるこのシステムが、酒場街・思案橋の風情をより一層引き立てています。