「なぜ走高跳の世界記録は30年以上も更新されないのか」。この問いに対し、現場の指導者や元選手たちは驚くほど率直な答えを返す。
ある国内トップコーチは「記録を狙うこと自体がリスクになりすぎた」と指摘する。走高跳は踏切で体重の数倍の負荷が膝と足首にかかる。2m45を狙うには、それに見合う筋力とスピードが必要だが、そのピークを合わせる過程で故障する選手が後を絶たない。実際、2010年代に2m40前後を跳んだボンダレンコやウホフも、度重なる故障に苦しんだ。
SNSや掲示板でも「走高跳は記録よりメダル競技になった」「ダイヤモンドリーグで稼ぐ方が賢い」といった声が見られる。これは単なる皮肉ではなく、競技の商業化が進んだ結果としてのリアルな選手心理だ。世界記録に挑むには、シーズン中の複数大会を捨ててでも一発に賭ける必要があるが、それでは生活が成り立たない選手も多い。
一方で、若手選手の間には「記録への飢え」が確かに残っている。2026年に頭角を現した20歳の米国選手は「僕たちの世代が2m50を跳ぶ」と公言し、SNSで話題になった。こうした発言が現実味を帯びるかどうかは、2026年シーズンの成績次第だ。世界陸連の公式記録データベースを見ても、2026年シーズンは2m30超の達成者数が前年比で約2割増えており、競技全体の底上げは進んでいる。