「山の家」という言葉が持つもうひとつの重要な側面が、日本の建築史に刻まれた名建築としての存在です。その頂点に位置するのが、ル・コルビュジエの愛弟子であり日本のモダニズム建築を牽引した巨匠・前川國男氏が1974年に長野県軽井沢に建てた自邸別荘「前川國男の山の家(軽井沢の別荘)」です。
前川氏の「山の家」は、切妻屋根のシンプルな木造平屋建てでありながら、深い軒と大きな開口部によって周囲の森と完璧に調和する空間設計が施されています。外壁には防腐性の高い杉板が使われ、内部は無駄を削ぎ落とした機能美と木造の温もりが同居しており、半世紀を経た現在でも建築関係者やデザイナーにとっての聖地として語り継がれています。
吉村順三氏の「軽井沢の山荘(小さな森の家)」と並び、日本の気候風土に適応した「山荘建築の最高峰」として学術的にも高く評価されているこの邸宅は、「自然の中に最小限の人工物を据え、風景を借りて豊かに暮らす」という日本の山の家文化の原点を示しています。