天ぷら鍋にナスを投入したとき、内部で何が起きているのでしょうか。ナスの果肉には無数の気泡があり、油で加熱されると気泡内の水分が急激に水蒸気へと変化します。このとき、皮に切れ目がないと内部の蒸気圧が行き場を失い、果肉の組織を押し潰してしまいます。結果として、揚げ油の中に引き上げられた後、冷める過程でナスが油を強烈に吸い戻してしまう「毛細管現象による過剰吸油」が発生するのです。
天ぷら職人がナスに細かく包丁を入れる最大の理由は、単なる見た目の美しさだけではありません。ナスに適切な切り込みを入れる理由は、皮の表面積を広げて熱伝導率を高めると同時に、水蒸気の放出口を無数に作ることです。蒸気がスムーズに外へ抜けることで、衣の内側に適度な空洞が保たれ、衣はサクサク、果肉は余分な油を吸わずにトロトロの食感へと昇華します。調理科学の実験データでも、無加工のナスに比べて細かく切り込みを入れたナスは、揚げた際の吸油率が約25%〜35%抑制されることが実証されています。