ネット上の情報空間には、本作に関して長年放置されているいくつかの決定的な誤解が存在します。
第1の誤解は、「CUBEは悪趣味な殺人鬼が作った私設の拷問部屋である」という認識です。続編の『CUBE2』や前日譚『CUBE ZERO』では組織の輪郭が描かれますが、第1作のオリジナル版において明かされる真実ははるかに不気味です。劇中で外壁の設計に携わった建築技師ワースが告白するように、「誰も全体像を知らないまま、予算消化と組織の自己増殖によって無目的に作られてしまった巨大建造物」であることが示唆されます。明確な黒幕や目的が存在しないからこそ、脱出の論理が狂っていく不条理劇なのです。
第2の誤解は、「全員が無残に死亡する救いのない結末である」という思い込みです。
物語の結末において、高度な知能を持ちながらも警察官クエンティンの暴力によって重傷を負わされた学生レブン、冷笑的だったワースらは出口の部屋で命を落とします。しかし、知的障がいを持ちながら超人的な暗算能力(素因数分解能力)でグループを出口へと導いた青年カザンただ一人だけが、開かれた白い光の中へと歩みを進めて生還(脱出)を果たします。
エゴや暴力、知性に驕った者たちが次々と自滅し、最も純粋で無欲だった存在だけが外界へと解き放たれるラストシーンは、単なるグロ映画の枠に収まらない宗教的・哲学的な余韻を観客に残します。