冷風にさらされた頬や、冷たい水に触れた指先がわずか数分で赤く腫れ上がり、地図状のみみず腫れ(膨疹)を生じる寒冷蕁麻疹。世間一般では「寒冷アレルギー」と呼ばれるケースが多いものの、厳密な皮膚科学においては、花粉症や食物アレルギーのような特定の抗原(アレルゲン)に対する「免疫グロブリンE(IgE抗体)」を介した反応ではありません。
本疾患は、温度の急激な低下という物理的刺激が引き金となって、皮膚組織内にある肥満細胞(マスト細胞)が直接刺激を受け、神経伝達物質であるヒスタミンなどを一気に放出することで起こる「物理性蕁麻疹」に分類されます。放出されたヒスタミンが毛細血管を拡張させて血漿成分を漏出させ(皮膚の腫れ・浮腫)、知覚神経を刺激することで激しい痒みを引き起こします。
「昨日まで何ともなかったのに、なぜ今年突然発症したのか」という疑問を持つ患者は少なくありません。臨床現場の知見によると、寒冷蕁麻疹が後天的に突然発症する背景には、以下のような複合要因が存在します。
- 自律神経の乱れと皮膚バリア機能の低下:慢性的な睡眠不足、過労、精神的ストレスによって交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、肥満細胞の刺激閾値(反応しやすさ)が著しく低下している状態。
- 感染症罹患後の免疫過敏:ウイルス感染や風邪などを患った直後は、全身の免疫システムが過敏になっており、普段なら耐えられる程度の寒冷刺激にも過剰反応を示すことがあります。
- 基礎疾患や特定の血液タンパク異常:極めて稀なケース(全体の数パーセント程度)として、クリオグロブリン血症や寒冷凝集素症といった、低温下で異常なタンパク質が血液中に生じる疾患が隠れている場合があります。
寒冷蕁麻疹は大きく分けて、冷気に触れた部位のみが腫れる「局所性」と、冷風を全身に浴びたり冷水プールに入ったりした際に広範囲へ広がる「全身性」に大別されます。体質だからと軽視せず、自身の皮膚がどの程度の温度差で反応しているかを正しく把握することが第一歩となります。