鳥類や植物の中で、なぜ鳩とオリーブが絶対的な「平和の象徴」としての地位を確立したのか。その起源を辿ると、紀元前の古代神話と聖書の記述、そして20世紀の劇的なアートシーンという2つの決定的な転換点が存在します。
最古のルーツとして広く知られるのが、旧約聖書『創世記』に登場する「ノアの方舟(はこぶね)」のエピソードです。神が起こした大洪水のなか、方舟に乗ったノアは地上の水が引いたかどうかを確かめるため、船から鳩を放ちました。一度目は何も得られずに戻ってきた鳩ですが、七日後に再び放たれると、くちばしに「オリーブの若葉」をくわえて帰還したのです。これにより、ノアは大洪水が収まり、地上に再び生命の営みと神の和解、すなわち「平和と再生」が訪れたことを悟りました。この宗教的説話が、西洋社会において「鳩=吉報をもたらす神の使者」「オリーブ=平穏と安息」という図式を強固に根付かせる原点となりました。
さらに古代ギリシャ神話においても、知恵と戦いの女神アテナが海神ポセイドンと都市の支配権を争った際、人々に豊穣と平和をもたらす「オリーブの木」を贈り、勝利を収めたという伝説が残されています。古来、オリーブは実から油が採れ、過酷な乾燥地帯でも長く生き続けることから、繁栄と協調のシンボルとして丁重に扱われてきた歴史があります。
しかし、この宗教的・古典的なイメージを全世界規模の共通認識へと押し上げたのは、天才画家パブロ・ピカソの存在でした。1949年、第二次世界大戦の惨禍冷めやらぬパリで開催された「第1回パリ国際平和擁護世界大会」において、公式ポスターの図案を依頼されたピカソは、自身がアトリエで飼育していた愛鳩をモデルに優美な石版画(リトグラフ)を描き上げました。このポスターが世界数十カ国に配布されて熱狂的な支持を集め、翌1950年にはオリーブの小枝をくわえた白い鳩のポスターを新たに制作。これにより、「白い鳩+オリーブ=世界共通の平和のアイコン」という視覚的共通言語が決定的なものとなりました。