木村多江さんの母としての歩みを語る上で、避けて通れないのが妊娠中に直面した壮絶な医療危機です。当時の特番インタビューや手記で語られた告白は、同じように不妊や切迫流産・早産に悩む多くの女性たちに勇気を与え続けています。
妊娠が判明して間もなく、木村さんは重度の切迫早産と診断され、医師から「胎児の命を守るためには、絶対に起き上がってはならない」という厳格な指示を受けました。その結果、妊娠初期から出産直前までの約8ヶ月間、完全なベッド上での寝たきり生活を余儀なくされたのです。
自力で起き上がることすら許されず、食事や洗髪、排泄に至るまで周囲の介助を必要とする過酷な環境でした。「少しでも動けば我が子の命が消えてしまうかもしれない」という極度の精神的プレッシャーと闘いながら、木村さんは天井だけを見つめる日々を過ごしました。点滴による副作用や筋力の著しい低下に耐え抜き、2008年2月、体重2,696gの元気な産声を上げた瞬間、病室は涙に包まれたと伝えられています。
この命がけの経験は、女優としての表現力にも決定的な影響を与えました。出産直後に公開された主演映画『ぐるりのこと。』では、子供を失った悲しみから心身のバランスを崩していく母親役を熱演。自身の壮絶な妊娠・出産体験と重なるリアルな感情表現が高く評価され、第32回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をはじめとする数々の映画賞を総なめにしました。