視聴者が最も驚かされたのは、まるで本当に犬自身が口を動かして喋っているかのようなリアリティでした。この「喋る仕組み」は、現場のアナログな技術と当時の最先端デジタル技術が高度に融合した成果です。
撮影現場では、ドッグトレーナーがカメラの死角から徹底したサイン出しを行っていました。ムックの自然な口の開閉や首の傾きを引き出すため、おやつやペースト状のフードを使った細やかな誘導が重ねられました。犬が咀嚼したり舌を動かしたりする無意識の動作を捉え、その実写映像に対してポストプロダクションで3DCGによる口元のトラッキング合成(リップシンク加工)を施したのです。
単に口をパクパクさせるだけでなく、セリフの母音に合わせて下顎の角度や唇のめくれ具合をフレーム単位で微調整する作業は、2011年当時の連続ドラマ制作としては驚異的な時間とコストを要する挑戦でした。現場スタッフの回顧録によると、芦田愛菜と鈴木福の自然なリアクションを引き出すため、本番中は助監督がムックのセリフを生で読み上げ、子どもたちが本当に犬と対話している空気を作り出していたといいます。