言葉の選び方が人間関係や人事評価に直結する理由は、単なる文法上の正誤にとどまりません。組織社会学およびコミュニケーション心理学の観点から見ると、指示を受ける際の発言には「心理的バウンダリー(境界線)」と「役割期待の合意」が強く作用しています。
上司が部下にタスクを指示する際、無意識のうちに求めているのは「指示内容の正確な把握」と「責任ある遂行へのコミットメント」です。これに対し、部下が「わかりました」や「了解です」と返答すると、心理学的な認知バイアス(「言葉の軽さ=仕事への熱量の低さ」とみなす確証バイアス)が働き、上司側は「本当に重要性を理解しているのか」「軽く受け流されているのではないか」という不安や不快感を抱きます。
また、日本語特有の「上下の序列関係と謙譲意識」の文脈において、相手より一歩身を引く謙譲語(「承知いたしました」)を使う行為は、「私はあなたの指示を組織の正式な命令として重く受け止めました」という服従と協調のシグナルになります。このシグナルを省略して丁寧語(「わかりました」)だけで済ませる行為は、組織内の関係性を対等化しようとする無言の主張と受け取られ、評価者の心象を損ねる要因となるのです。