「ヘラクレスリッキーのブルー個体は完全に固定化されているのか?」という長年の問いに対し、生物物理学的な事実から結論を述べるなら、「どのような環境下でも常に青いままの個体」という意味での固定化は不可能です。しかし、「乾燥状態において美しい青白色を発現する遺伝系統」の固定化(高確率での遺伝)はすでに確立されつつあります。
ヘラクレスオオカブトの上翅(前翅)の発色は、体液やメラニンなどの色素によるものではなく、光の波長が干渉し合って生まれる「構造色(Structural Color)」に起因します。上翅のクチクラ層内部には無数の微細なスポンジ状多孔質構造が存在し、空気が満ちて乾燥している状態では光を散乱・反射して青〜黄白色に見えます。ところが、ケース内の湿度が高くなったり生体が水分を摂取したりすると、多孔質構造に水分が浸透して光の屈折率が変化し、下層の黒いメラニン層が透けて漆黒へと変化するのです。
ネット上で「湿度で黒くなったから偽物を掴まされた」という嘆きが散見されますが、これはヘラクレスの呼吸や生体防御に関わる自然な生理現象にほかなりません。血統ブリードにおいて目指されている固定化とは、「水分変化に耐えうる変異」ではなく、「通常個体が持つ黄色系色素(ルテイン等)の沈着が極めて少なく、乾燥時に濁りのないスカイブルーやアイスブルーを安定して発色する形質」の選抜累積です。