『旅立ちの日に…』が聴く者の琴線を激しく揺さぶる理由は、川嶋あいの過酷な生い立ちと、楽曲に込められた切実な祈りにあります。幼少期に実の母を亡くし、児童養護施設を経て養子縁組によって温かな養母に引き取られた彼女は、早くから歌手になる夢を抱いていました。
しかし、高校進学を控えた時期に、深い愛情を注いでくれた養母までもが病に倒れ、急逝してしまいます。天涯孤独となった川嶋あいは、「天国の母に自分の歌を届ける」という誓いを胸に、たった一人で単身上京しました。看板とラジカセだけを抱え、渋谷駅ハチ公前を中心とする路上ライブ1,000回、そして自主制作CDの手売り5,000枚という過酷な目標を掲げて歌い始めたのです。
寒空の下、冷たい路上で通行人が足を止めるきっかけとなったのが、当時歌っていた『旅立ちの日に…』でした。歌詞に散りばめられた「桜舞う季節」「背中押す温かい手」といった情景描写は、単なる学校生活の回想にとどまらず、天国の母へ向けた感謝と決意そのものでした。飾り気のない言葉と透き通るような歌声に秘められた真実が、道行く人々の足を止め、やがて社会現象へと発展していくことになります。