そもそもクラシック音楽の定義とはどこにあるのでしょうか。語源を遡ると、ラテン語の「クラシクス(classicus)」に行き当たります。これは古代ローマにおいて最高階級の市民を指した言葉であり、転じて「一流の」「模範とすべき」「時代を超えて残るべき古典」という意味を持つようになりました。広義には、バッハらが活躍した17世紀のヨーロッパから連綿と続く西洋芸術音楽の体系全般を指します。
では、現代のヒットチャートを賑わすポピュラー音楽とクラシックの決定的な分岐点はどこにあるのでしょうか。音楽学者や現場の演奏家たちが口を揃えて指摘するのは、「楽譜の絶対性」と「再現芸術としての性質」です。
ポピュラー音楽は基本的に、特定のアーティストがスタジオで歌い、録音・ミックスされた「特定の音源(マスター音源)」そのものが完成品となります。ボーカルの声質、エフェクトのかかり具合、グルーヴ感が楽曲のアイデンティティであり、他人がそれをカバーすると「別の作品」として受け止められるのが通例です。一方、クラシック音楽における作品の本体は、作曲家が残した「楽譜(スコア)」にあります。ベートーヴェンやモーツァルトが音符として書き記した構築美を、後世の指揮者や演奏家がそれぞれの解釈で肉声化・具現化する作業こそがクラシックの本質です。200年前の設計図をもとに、今を生きる演奏家が命を吹き込むため、同じ楽曲であっても指揮者やオーケストラによってテンポも音色も全く異なるスリリングな体験が生まれます。
さらに分類上、クラシック音楽は管弦楽全体で壮大な物語を構築する「交響曲」、ソリストとオーケストラが対話する「協奏曲」、小規模なアンサンブルによる「室内楽曲」、ピアノなどの独奏による「器楽曲」、そしてオペラや合唱などの「声楽曲」といった厳密なジャンル分けを持ちます。これらはメロディだけでなく、緻密な和声進行(ハーモニー)、計算されたポリフォニー(複旋律)、ダイナミクスの急激な対比によって人間の喜怒哀楽を余すところなく表現する技術の結晶です。