大手Q&AサイトやSNS上を分析すると、健診で尿糖陽性通知を受け取った受診者の投稿には共通した心理的傾向が見られます。「健診前日の夜にケーキを食べてしまったのが原因だと思いたい」「数日後の再検査では陰性だったから問題ないはず」といった、現実を直視することを躊躇する声が散見されます。病気ではないと信じ込みたい心理、すなわち行動経済学や心理学で言う「正常性バイアス(Normalcy Bias)」が強く働く場面です。
医療関係者の証言によると、健診後に精密検査を受けずに放置し、数年後に重篤な合併症を発症して病院に搬送されるケースの多くは、この「初期段階での自覚症状の無さ」に起因しています。高血糖状態が軽度から中等度である初期段階では、人体に目立った痛みや違和感は現れません。そのため、「元気だから大丈夫」と判断してしまうのです。
しかし、血液中の糖濃度が慢性的に高止まりし、尿中に大量の糖が漏れ出続けると、身体は明確な悲鳴を上げ始めます。これこそが糖尿病初期症状のサインです。
第一のサインは、「異常な口の渇き(口渇)」と「水分摂取量の激増(多飲)」です。尿中にブドウ糖が排泄される際、糖分子が持つ高い浸透圧によって水分が一緒に引きずり出される「浸透圧利尿」が起こります。その結果、一日の尿量が急増し(多尿)、夜間に何度もトイレに起きるようになります。体内の水分が奪われるため、喉の奥が焼けるように渇き、冷たい水やお茶を数リットル単位でがぶ飲みする悪循環に陥ります。
第二のサインは、「食べているのに急激に体重が減少する現象」と「慢性的な倦怠感」です。インスリンの働きが著しく低下すると、細胞は血液中に溢れているブドウ糖をエネルギー源として利用できなくなります。飢餓状態に陥った生体は、生命を維持するために自らの筋肉や体脂肪を急速に分解してエネルギーを補填し始めます。食事量を減らしていないにもかかわらず、短期間で数キロ単位の体重減少が見られた場合、糖代謝はすでに極めて深刻な危機に瀕しています。
また、特殊な配慮を要するのが女性における妊娠糖尿病と尿糖の関連です。妊娠中は胎盤から分泌されるインスリン拮抗ホルモンの影響でインスリンが効きにくくなる(インスリン抵抗性の増大)と同時に、胎児へ栄養を運ぶために腎血流量が約50%も増加します。これにより糸球体での濾過量が増え、尿細管の再吸収が追いつかずに尿糖が出やすくなります。妊娠期の尿糖は比較的頻繁に見られる現象ですが、母体のみならず胎児の過巨大児化や難産のリスクを回避するため、産科におけるOGTT(ブドウ糖負荷試験)による厳格な血糖管理が不可欠となります。