「藪から棒(やぶからぼう)」の辞書的な意味は、「前触れや予告もなく、突然物事が起きるさま」、あるいは「唐突に話や行動を始める様子」を指します。日常的には「藪から棒に何を言い出すのか」「藪から棒な質問」といった形で多用されます。
では、なぜ「藪」から出てくるのが「棒」なのでしょうか。その語源には、江戸時代の生活環境と防犯事情が色濃く反映されています。
かつて街灯など存在しなかった時代、鬱蒼と草木が生い茂る「藪」の脇を夜間に通りかかる旅人や町人は、常に辻斬りや追剥(強盗)の恐怖に晒されていました。身を潜めていた賊が、いきなり藪の隙間から太い棒を突き出して通行人を殴りつけたり、脅し取ったりした生々しい手口から、「何の前兆もなく不意打ちを受けること」の例えとして定着したとされています。
江戸中期の浄瑠璃や洒落本などの文献にもすでに登場しており、古くから庶民の間で「不意を突かれた驚き」を言い表す強烈な比喩表現として親しまれてきました。つまり、「藪から棒」という言葉の根底には、「どこから飛んでくるか予測不可能な奇襲に対する恐怖と当惑」という原初的なニュアンスが宿っています。