片岡千之助を語る上で欠かせないのが、上方歌舞伎を代表する名門「松嶋屋」の重厚な血脈です。曾祖父である十三代目片岡仁左衛門、そして現代の歌舞伎界で圧倒的なカリスマ性を誇る祖父・十五代目片岡仁左衛門、女方として高い評価を受ける父・片岡孝太郎という、三代にわたる至高の芸がその身体に流れています。
千之助は2000年3月1日に東京都で誕生しました。初舞台は2003年12月、わずか3歳のときに出演した歌舞伎座『人情噺文七元結』のお久役でした。幼い頃から祖父・仁左衛門を師匠として深く敬愛し、2011年11月の新橋演舞場『連獅子』では、祖父と孫による共演が実現。当時11歳だった千之助が見せた気迫あふれる毛振りと凛とした佇まいは、観客や劇評家に大きな衝撃を与えました。
舞台関係者の証言によると、稽古場における仁左衛門の指導は妥協のない厳しさで知られますが、千之助に対する眼差しには芸の伝承者としての深い愛情が満ちていたといいます。テレビ特番のインタビューにおいて千之助自身も「祖父の背中はあまりにも大きく、追いつくことは容易ではないが、その芸を少しでも身体に染み込ませたい」と語っており、血縁を超えた師弟としての強い結びつきがうかがえます。
また、母である博子さんへの感謝も深く、名門一家を支える家庭環境の中で礼儀作法や感性が育まれてきました。父・孝太郎の細やかな所作指導と、祖父・仁左衛門の豪放かつ端正な芸風の双方を吸収できる環境は、歌舞伎界広しといえども稀有な特権といえます。