越前市の夜、裏路地の暖簾を潜ると、そこには地元住民しか知らない密やかな熱気がある。表通りの喧騒から離れた隠れた名店で振る舞われるのは、福井県が誇る最高峰のブランド和牛「若狭牛」だ。きめ細やかなサシが網目状に入り込んだ最高等級の肉は、火が通るにつれて透明感ある脂を滴らせる。
特に注目すべきは、限られたルートでしか入荷しないミスジやイチボ、ザブトンといった希少部位の扱いだ。職人が部位ごとにミリ単位で包丁の入れ方を変え、最適な肉厚とカットで提供する。一口頬張れば、上質な脂の甘みと濃密な赤身の旨味が口いっぱいに広がり、思わず吐息が漏れる。地元民が口を揃えて「教えたくない」と語る理由が、そこには確かに存在していた。