1988年のソロデビューシングル『ANGEL』で打ち立てた孤高の金字塔。そこから2016年、東京ドームでの『LAST GIGS』に至るまで、氷室の肉体と精神は常に限界まで研ぎ澄まされていた。特にキャリア後半、彼を苦しめ続けた聴力トラブルと耳鳴りは、完璧主義者の魂を容赦なく削り取っていく。
妥協したパフォーマンスをファンに見せるくらいなら、ステージを降りる。その残酷なまでの美学を受け入れ、最終的にマイクを置く決断を下した彼の葛藤を、もっとも間近で受け止めたのも妻だった。引退ではなくライブ活動の無期限休止という幕引きの裏には、「表現者としての誇りを保ったまま、穏やかな余生を生きてほしい」という家族の祈りにも似た理解が存在していた。