医療機関で日常的に使われる「所見」という言葉は、病気の名前(診断名)とは明確に区別される。臨床医学において、所見とはあくまで医師が五感や各種機器を用いて収集した「客観的な事実」の記録だ。聴診器で聞こえる雑音、心電図の波形の乱れ、あるいは血液中の酵素数値の上昇など、体に現れた現行の反応すべてがこれに含まれる。
診察室において、医師は電子カルテにこれらの所見を詳細に打ち込んでいく。重要なのは、一つの所見が存在するからといって、即座に「重い病気にかかっている」とは限らない点である。例えば、胸部X線検査で「影」が認められた場合、それが過去の炎症の痕跡(陳旧性変化)に過ぎないこともあれば、早期の肺病変を示していることもある。所見とは、いわば体が発する微小なシグナルを医師の目で解読した、健康状態の「途中経過報告」なのだ。