日本の麺文化において、絶対的な存在感を放つのが香川県の讃岐うどんと秋田県の稲庭うどんだ。そのルーツを探ると、途方もない歴史の深さに圧倒される。香川県に伝わる伝説によれば、平安時代初期に真言宗の開祖である空海が唐から製麺技術を持ち帰ったことが、この地のうどん文化の原点とされる。小麦の栽培に適した温暖な気候と塩の生産が重なり、讃岐の地は「うどん王国」としての基盤を強固に固めていった。2000年代に公開された映画『UDON』は、その圧倒的なディープさとセルフ店の魅力を全国へ波及させ、一撃で一大ブームを巻き起こした歴史的エピソードとして語り継がれている。
一方で、北の大地で独自の発達を遂げたのが稲庭うどんである。寛文年間に吉左衛門によって確立されたとされる手延べ製法は、門外不出の秘伝として受け継がれてきた。その伝統を現代に伝え、最高峰のブランドへと押し上げたのが代々の佐藤養助だ。手綯い(てない)と潰し(つぶし)という途方もない手作業を経て作られる平打ちの細麺は、気品ある滑らかな喉越しを生み出す。剛の讃岐、柔の稲庭。この対極にある二つの頂点が、長らく日本のうどん界の二本柱として君臨してきた。