検索エンジンに建物名を入力すると関連ワードとして現れるのが「事故物件」という物騒な単語です。これから入居しようとするテナントや住居検討者にとって、最も警戒すべきリスクですが、結論から言えばワコーレ新宿第一ビル自体が重大な事件・事故物件であるとする客観的な確証は存在しません。
不動産取引において義務付けられる心理的瑕疵の告知事項や、事故物件情報サイト「大島てる」をはじめとする各種データベース、さらには過去の新聞縮刷版の事件事故アーカイブを綿密に照合したところ、本ビル内での凶悪事件や重大事案の公示記録は見当たりませんでした。それにもかかわらず、なぜこのような不名誉な検索サジェストが形成されたのでしょうか。
その背景には、都市構造特有の「風評の混同」があります。本ビルが位置する西新宿7丁目は、線路を挟んですぐ東側に歌舞伎町が広がり、北側にはディープな繁華街を有する百人町が接しています。過去数十年において、近隣の雑居ビルで発生した火災や傷害事件、あるいは同一ブランドを冠する他地域の「ワコーレ」物件で起きた事象が、ネット上の無責任なまとめサイトや掲示板で混同され、キーワードだけが一人歩きして定着してしまった構図が浮かび上がります。
また、ワコーレ新宿第一ビルのオーナー経緯に関しても様々な臆測が飛び交っています。本物件は1棟まるごと単一オーナーが保有し続ける純然たる賃貸専用ビルではなく、建設当時に分譲された区分所有形態をとっています。そのため、フロアや区画ごとに所有者(オーナー)が異なり、法人の保有区画もあれば個人投資家が代々相続している区画もあります。
バブル経済の崩壊やその後の不動産流動化の波を経て、一部の区分所有権が転売されたり、投資ファンドやリノベーション事業者の手に渡ったりした経緯はありますが、これは昭和後期の都心分譲ビルとしてごく標準的な変遷です。反社会的勢力の関与や不透明な権利関係に起因する登記の混乱は見られず、正規の管理組合組織によって維持管理が継続されています。