歯茎のトラブルを単なるブラッシング不足と片付けるのは早計です。臨床現場の知見において、歯茎の腫れと疲れ・ストレスの直接的な原因は、生体防御機構の急激な破綻にあることが突き止められています。人間の身体が過度の疲労や精神的負荷に晒されると、脳の視床下部から副腎皮質に向けて指令が出され、ストレス対抗ホルモンである「コルチゾール」や「アドレナリン」が大量に分泌されます。
これらのホルモンが血中にあふれると、細菌を貪食・殺菌する役割を担う好中球の遊走能や活性酸素産生能が著しく減退します。これが、過労時に体内で生じる歯茎の腫れと免疫力低下の正体です。普段であれば数百万個の歯周病菌が存在していても、好中球が歯肉溝(歯と歯茎の境目)の最前線で侵入を食い止めています。しかし、兵士である白血球の機能が低下した瞬間、優勢となった細菌が歯肉組織へ侵入し、激しい急性炎症を引き起こします。
さらに見過ごせないのが、自律神経の変調に伴う口腔環境の激変です。極度の緊張や睡眠不足が続くと交感神経が優位になり、唾液の分泌量が激減します。唾液に含まれる抗菌物質「ラクトフェリン」や「リゾチーム」、粘膜を守る「免疫グロブリンA(IgA)」の供給がストップするため、口腔内は乾燥し、嫌気性菌である歯周病菌にとって格好の増殖環境へと変貌します。
加えて、精神的ストレスを抱えた人の約7割が無自覚のうちに行っているとされるのが、就寝中の強い「歯ぎしり」や日中の「無意識の食いしばり(TCH:上下歯列接触癖)」です。歯根膜と呼ばれるクッション組織に数百キロ単位の物理的過負荷が加わり続けることで、歯周組織が微小断裂を起こします。免疫低下による細菌の暴走と、食いしばりによる物理的破壊という二重の打撃が加わることこそ、歯周病が疲れによって急激に悪化する決定的な理由なのです。